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超不定期連載「メイドさんを探して」 第4.5話 

第4.5話『フォトスフィア』

あまりにも久しぶりすぎて自分でもキャラとか忘れてたので概略・登場人物紹介作りました。

第1話/第2話/第3話/第4話

 宿直室ののれんをくぐった荻生郁子は、すぐにいつもとは違う空気に気付いた。

「会長、まだ来てないんだ……」

 郁子がこの元宿直室を根城とする次世代メイド研究会(略称:次メ研)という謎の集まりに加わり、放課後日参するようになってからしばらく経過していたが、いつもはこの部屋の住人であり次メ研の会長である霜田格を筆頭とするメンバーの誰かしらが先に姿を見せていた。今日は初めての一番乗りだった。

 とりあえず鞄を置こうとして、そのためのわずかなスペースすら今のこの部屋には存在しないことに気付く。さして広くもない部屋に、脱ぎっぱなしの衣類や読みさしの漫画、様々な種類のトレーディングカード、映像ソフトやゲームのパッケージなどが爆発的に散乱しているさまは、入部初日に洗礼を浴びた混沌の渦を思い起こさせた。

「もう、この前片付けたばっかりなのに」

 誰もいないのでついいつもより大きな声でぼやいてから、部屋の一角を占める間仕切りの奥の更衣スペース──通称『兎束ゾーン』──へと消える。ややあって再び姿を現した郁子は、学校の制服からクラシックな黒のメイド服へと衣替えしていた。

 当初は着るのが猛烈に気恥ずかしかったこの衣装にも少しは慣れてきた。まだ次メ研メンバー以外にこの姿をさらす勇気はないし、こうやって自分からメイド服に袖を通しているのもどうせ後で兎束英梨という名の鬼(オウガ)に無理矢理着せられてしまうからなのだが、特別嫌だということもない。ただし、こうした片付けの際には少し動きにくいのが難と言えば難だった。

 まずは空のペットボトルや菓子袋をゴミとして分別し、それが終わると散らばった衣類を壁際のカラーボックスに収納していく。会長の霜田はこの学校の生徒でありながら比喩でなく宿直室に『住んでいる』ため、いくつか下着なども転がっていた──霜田はブリーフ派だった──が、ふだん家でも洗濯から取り込みまでを担当している郁子は特に動揺も見せず淡々と収納作業を終わらせた。

 そして書籍類の整理にとりかかったとき、起こるべくしてそれは起こった。

(え、なんだろ)

 無造作に積まれた雑誌の最下部にその漫画本を見つけたとき、郁子はすぐにはそれが何なのかわからなかった。表紙には『零落メイド姉』というタイトルが刻まれ、その下で胸の大きい薄幸そうな娘が露出度の高いメイド服を着て扇情的なポーズをとっている。隅のほうに『成年コミック』マークが燦然と輝いているのを見つけるに至って、さすがに郁子も現実を直視せざるを得なかった。

「こ……これってもしかして、いわゆる……」

 己がまったく油断しきっていたことを、郁子は認めないわけにはいかなかった。見た目は小学生、そして自称既婚者とはいえ、かりにも男子中学生の部屋である。掃除中にいかがわしいブツを見つけてしまう、こんな緊急事態も充分に想定できたはずなのだ。

「どうしよう……」

 背中を伝う嫌な汗を感じながら次に郁子がとった行動は、とりあえず中身の確認、であった。

*

 ~ 『零落メイド姉』あらすじ ~

 それは、他愛無い約束のはずだった。

 ときおり庭園の東屋で行われる、お屋敷の跡取り少年とお世話係メイドの和やかなチェス勝負。

 初めてメイドが敗北を喫した日、『負けた方がなんでもひとつ言うことをきく』というのどかなルールが暗転する。

 姉同然のメイドに対して、少年は言い放った。

 じゃあさ、ちょっと特別なお願いがあるんだ──。

*

(……あははは。本気だー)

 当然ながら内容は完全な18禁であり、それはもうのっけからメイドさんが色々おかしなことになっていた。この方面では自他共に認める奥手の郁子にとってはもちろん赤面ものの描写だったが、好奇心のほうが上回ってついつい頁をめくり続けてしまうのもまた奥手ゆえの哀しい性だった。

(だけどそれにしたって)

 こんな『未来のメイドさんを考える』的な同好会を興し、あまつさえ実際に女子にメイド服を着せておきながら、メイドさんもののエロマンガはないだろうと思う。いや、それともこれは単なる資料なのだろうか。

 ああ、これはメイドさんのイメージ調査用に買ったんだ──確かにあの霜田なら朗らかに言いそうな台詞ではある。

(別に意識して隠してたわけでもなさそうだし、やっぱりそっちなのかな……?)

 読むのはやめずに、そんなことを考える。背後から誰かのぼやきが聞こえてきたのはそのときだった。

「っとに、あの担任毎日ホームルーム長すぎだって。いっかいブッ転ばしてわからせるしかねーなもう」

 いつも通り清涼感溢れる美少女オーラとそれに不似合いな発言を振りまいて登場したのは兎束英梨だった。

「ひうっ」

「ん、どったのオギュー」

 正座の体勢から英梨のほうへ普段とは段違いの素早さで120度ほど向きを変え、明らかに後ろ手に何かを隠し持っている郁子のただならぬ様子に、英梨は少し首をかしげた。

「何でもないです。ほんとに何でもないですから。き、今日は早いんですね」

「そう? いつもと変わんないけど。てか何隠してんのあんた」

「え、いえ、これは、あの」

 完全に進退窮まった郁子はもうどうしていいかわからず、ほとんど抵抗もできずにブツを奪われてしまった。

「……ふーん。なるほどね」

 肌色の多い表紙をためつすがめつしている英梨の表情からは、どんな風に受け取られたのかは窺い知れない。誤解されたかも、と考えるだけで郁子は頬が火照るのを感じた。

「それはですねえと、この部屋にあった本で、その」

「──そこかあッ!」

 英梨が次に取った行動は、郁子のどんな予想をも超えていた。郁子から奪ったばかりの単行本を、天井の隅へ向けて全力で投げつけたのだ。

「ふびっ」

 音速に迫るスピードで投擲されたエロ漫画は天井をブチ抜き、屋根裏にいた何者かに小気味のよい音をたてて直撃した。その人物は大音声とともに落下し、情けない呻き声をあげて畳の上で昏倒する。

 恐る恐る『それ』に視線を向けた郁子が見たものは、見知った馬っぽい大容積男子──毎日顔を合わせている部員のひとり、馬飼野だった。傍には鈍く銀色に光る物体が転がっている。

「え、これビデオカメラ?」

 郁子の動揺をよそに、英梨は自らが引き起こした事態を全く無視して、何やら考え込むそぶりをしている。

「んー、位置とアングルから考えて……これか」

 やがてこたつに載っていたボールペンをつまみ上げ、しばらくいじり倒した挙句に納得顔をした。

「そのペンは……?」

 郁子の疑問に、ペンをまっぷたつに折ることで答える英梨。

「スパイグッズとか言って売ってるんだよね、こういう盗撮用のボールペンだの腕時計だのが。至近距離からもばっちり撮られてたってわけ。さすがに自分が何されてたかわかったでしょ」

 英梨はすっかり黙り込んだ郁子から、まだ気絶している馬飼野へ視線を移した。

「たく、こいつ昔のマンガかっつーの」

 呆れた口調だったが、表情は苦々しさを押さえ切れていない。珍しく英梨は少しちぐはくだった。



「で、話をまとめると」

 冷め切った態度でパラパラと目を通していたエロ漫画をコタツの上へぞんざいに放ると、郁子と同じタイプのメイド服に着替えた英梨は腕を組み、わざわざ流し付近の板張りに正座させられている馬飼野を見下ろした。

「この本を置いたのは自分です、エロ本を発見してどぎまぎするメイドさんが見たくてずっとチャンスを待っていた、ついカッとなってやったが今は反省している、でもカメラ返してください、せめてデータだけでも、と。そういうことだよね」

 決して目を合わせずに卑屈な作り笑いを浮かべて頷く馬飼野を見下ろして、英梨はにこりと天使のように微笑んだ。

「ふざけんな盗撮野郎」

 笑顔のまま、英梨の右脚が馬飼野の腹部に食い込む。かなり本気の蹴りだったらしく、いつもはしばかれると微妙に喜ぶ馬飼野が一瞬白目をむいて腹を抱え、前のめりに突っ伏した。

「着替えとかローアングルに隙がないからってそっち方面で来るとか、もうね」

「はぎ……や、やめて……」

「馬、あたし言ったよね。今度至らんこと企んだら縁切るって」

 蒼白だった馬飼野の顔色がさらにもう一段階、死人のように白くなる。

「学校には黙っといてやるから、二度と宿直室に来んな。霜田にはあたしが話しとく」

「待ってください。何もそこまで──」

「オギュー、こいつ前にも一度あたしん店(とこ)でメイドさん盗撮して出入り禁止になってんの。この部屋に置いといたら絶対またやるよ」

 英梨の真剣な目を見て、郁子はあることに気がついた。自然と口元がほころんでいく。

「兎束さんと馬飼野くんは、家族なんですね」

「はあ? いきなり何言ってんの。人間と馬が身内なわけないでしょ」

 本人は自覚ゼロなことに内心驚きつつも、なんとか顔に出さないよう努力する郁子。

「ともかく、私はもう気にしてませんから。これから言う条件さえ守ってもらえれば、それでいいです」

「その……条件……って」

 腹を押さえてうずくまったままの馬飼野が、蚊の鳴くような声で呻く。

「えっとですね、ひとつ、恥ずかしいので映像データは消去する。ふたつ、恥ずかしいのでさっきのことはこの三人だけの秘密にする。みっつ、恥ずかしいのでもう盗撮はしない」

「だからさっきも言ったけど、こいつ絶対また──」

「もうしませんよね、馬飼野くん」

 微笑みかける郁子に、先日部員に加わった汎用ロボなら確実に首がもげる勢いで頭を上下に振る馬飼野。英梨はそんなふたりの様子をしばらく眺めていたが、やがて諦めたように肩をすくめた。

「ま、被害者のオギューがそこまで言うなら。けど馬」

「かほっ」

 馬飼野の背中をグリグリと踏みしだきながら、英梨が念を押す。

「やっぱあんたコンポン的に信用できないから、カメラはあたしが預かっとく。あとオギューのおかげで助かったんだから、今日のこと絶対オカズに使うなよ」

「え、オカズ? って何ですか」

 額に変な汗を伝わせていつもよりさらに挙動不審になっている馬飼野をよそに、英梨は傍らの三つ編み眼鏡メイドの肩にそっと手を置き、あんたもエサ撒きすぎだから、とだけ答えた。

 そのときまた、誰かがのれんをくぐる気配がした。

「今日はみんな早いな。もう三人も来てるのか」

「会長、こんにちは」

「霜田かよ……」

 いつもより少しだけ遅れて、地黒の小学生が制服を着ているようにしか見えない中二男子、次メ研会長の霜田が宿直室という名の自分の部屋へ帰宅する。

「ん、なんでそんなもの持ってるんだ」

「なんでもいいでしょ。あんたに関係ないし」

 デジカムに気付いた霜田にすげなく対応する英梨。いちどは興味を失いかけた霜田だったが、突然その黒い顔を輝かせた。

「そうだ、そいつで次メ研所属メイドさんのPVを撮らないか? 普段の飾らない仕事ぶりからエロ本を見つけて赤面するところまでロマンチックにも程がある構成で──」

「……いま本気でここ来んのやめたくなったんだけど。思考パターン馬と同レベルの奴が会長とかさー」

「同レベル? それはどういう意味だ兎束」

 ジト目の英梨とわかっていない霜田、そして火の粉が飛んでこないかとおどおどしている馬飼野を見比べて、郁子は我知らず笑顔になり、また明日もここへ来ようと思うのだった。ただし、一番乗りだけは避けて。

(1.00)

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