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超不定期連載「メイドさんを探して」 第4話 

第四話「古代文明博覧会」

第一話第二話/第三話

「そういや、あんたの組に転校生が来たでしょ」

 間仕切りとカーテンの間からひょっこり首だけ覗かせると、兎束英梨はこの部屋の主──は露骨に無視して、その嫁である羽中田フヨに声をかけた。

「うん、なんかちっちゃくて可愛い女子。でもあんまり愛想ないんだよね~。自分からは絶対話しかけないし……あ」

 いつものように窓際でラノベのページをめくっていたフヨは、そこで何かに思い当たって顔を上げた。

「ひとりだけいた。なんでか八鍬(やくわ)さんには話しかけてた」

 メイド服に着替え終わって間仕切りの中の更衣スペース──通称「兎束ゾーン」──から出てくる英梨を捕捉しつつ、疑問を口にする。

「でもなんで英梨つぃんが興味持つの? いつもは転校生とか全然気にしないのに」

「あー……。ちょっと気になる噂があってさ……」

 英梨は嫌いなピーマンを嚥下したような顔をして、この元宿直室の現在の主である中学生とは思えない身長の少年、霜田格を視野に入れた。隣にいる馬っぽい大容積の男子、馬飼野とは実に好対照だ。霜田はときおり「むっ」とか「なにっ」とか液晶テレビに呟きながら先刻から馬飼野と何かの対戦ゲームに興じていたが、ちょうどそのときひと勝負ついたようだった。

「完敗だー。まさかコモン単のデッキにあんな可能性があるとはな。Cアンモナイトが効いてたよ」

「か、会長の……SLEアノマロカリスも……萌え萌えで……」

 会長とか何様よ、と英梨は小さく毒づく。コントローラーを置いた地黒の男子、霜田は次世代メイドさん研究会略して次メ研の会長を自称しており、放課後はこうして自分の部屋を活動の場、部室として提供しているのだった。しかし今この部屋に集まっているのが全員次メ研の会員かというとそうでもない。フヨは演劇部員で次メ研とは距離を置いているし、最近なしくずしになりつつあるが英梨もいちどはこの研究会を抜けた後、ゲスト的立場で復帰した身だ。

「あ、あの……やっぱりこれ脱いでもいいですか」

 部室を強引に分割する間仕切りの向こう、男子は誰もその奥を確かめたことのない謎と神秘に包まれた兎束ゾーンから、英梨を再び次メ研に関わらせることになった原因が困惑気味な声を上げた。

「あんで? 似合ってるじゃん。こっち出てきなよ」

「そんな……でも」

 そうしてひとしきりぐずった後、観念したのか英梨に続いてもうひとりメイド服の女子が出現する。お仕着せのデザインこそ同じだが、ふたりは霜田と馬飼野よりもよほど鮮烈なコントラストを作り出していた。

 一方の英梨は口を閉じていればという但し書きがつくものの、比類ない美少女である。温かみのある整った顔立ちも、今はツインテールの思わず触ってみたくなるつややかな髪も、なめらかな肌も少し華奢な手足も全てのパーツが完璧であり、そんな女子が踝丈のクラシックなメイド服をまとっている姿は感動的ですらあった。

 後から出てきた方の少女──荻生郁子という名で、英梨や霜田とは同級生である──は一見して地味な雰囲気だったが、長い二本のおさげに眼鏡という組み合わせと少し不安そうな表情がメイド服にこれ以上ないほどはまっていた。英梨がどんな服でも輝かせる素材だとすると、郁子にはメイド服を着るために生まれてきたようなところがあり、英梨がはっきり特別だとすると、郁子は類型を突き詰めたその先の何かを感じさせるという意味でまた特別だった。もっとも本人はまだそんな自分の資質に欠片も気付いておらず、メイド服着用にははなはだ消極的だ。

 郁子の姿を一瞥して、自分の見立てが間違っていなかったことを英梨は確信した。この子は、まだ化ける。と同時に、自分が郁子を霜田の魔の手から守らなければ、という決意も更新される。



 のれんをくぐって突然の来訪者が現れたのは、そんなときだった。ノックもなしに部屋へ乱入してきたのは、ショートカットの利発そうな女生徒。
「ごめん、ちょっとこの子預かって!」
 焦りを滲ませながらも決然と叫ぶ少女、そしてその小脇に抱えられ、不自然に頭を垂れる体操服姿の女子に皆の視線が集まる。ひらがな四文字タイトルの文庫本を閉じ、ふたりを認識したフヨが小さく呟いた。

「八鍬さんと……武垣さん~?」

 せり上がった語尾に疑問が込められている。その言葉で少女──恐らく『八鍬さん』のほう──も窓際のフヨに気付いたようだ。一瞬呆然としてから、覚悟したように話しかける。

「そっか、羽中田さん放課後はここにいるんだ」

「うん、演劇部の後でね。ていうかその子武垣さんでしょ、転」

「ごめん、今は何も聞かないで」

 フヨを遮りもう一度ごめん、と謝りながら、意識を失っているらしい小柄な女子を運び込もうとする。そこへ、黒い影が立ち塞がった。

「ちょっと待て! フヨとは知り合いらしいが、世帯主を差し置いて話を進めるのは感心しないな」

「あなたが……霜田くんね。勝手なことしてるのはわかってる。でも今は──」

「どう考えてもお前が抱えてる女子の行く先は保健室だろ。最低限の説明もする気、ないのか?」

「それは」

 唇を噛んでうつむく少女。そのまま場が膠着状態に陥りかけ、英梨がふたりの間に割って入ろうとしたとき──抱えられていた女子の右腕が、付け根からもげてずるりと畳の上に落下した。

 少女と霜田を除く全員から悲鳴が漏れた。



「──で、『これ』を説明してもらいましょうか、八鍬餡」

 いち早く恐慌状態から脱して、場の主導権を握ったのは英梨だった。早速ショートカット女子、餡を呼び捨てにして尋問の態勢に持ち込んでいる。メイド服のエプロンが抱いているのは、先ほどもげた右腕だった。本来なら肩にくっついているべき部分の断面は、皮膚脂肪筋肉骨と人体模型さながら本物の構造を忠実になぞっている。しかしどこまでも有機的でありながら、見た目通りのものではないことは一滴の出血もないことから明らかだった。

「あの転校生はお人形さんか何かなの?」

 馬飼野に確保させている右腕のない女子はまだ気を失っていた。特にきつく問い詰めているわけではないが、答えずにはいられないプレッシャーを漂わせているのは元ガキ大将の貫禄だろうか。

 場の空気に屈したのか、顔を伏せて黙っていた餡はぽつりと呟いた。

「言いたくないし、どうせ言っても信じないよ」

「いいから話してみ」

 餡の瞳がゆっくりと閉じていく。

「……うん、ある意味人形かも。その子はアンドロイドなの。うちもよくわかってないんだけど、ナノマシンで有機物を人間ぽくくっつけてるんだって」

「ナノ──って漫画とかに出てくるあのアレ? そんな超技術が中学校に転がってるわけないっしょ」

「ほらやっぱり信じない」

「いや、少なくとも俺は信じるぞ」

 ふたりの対決に割り込んできたのは霜田だった。訝しげに黒い中学生を覗き込む餡。

「そのキテレツな腕が何よりの証拠だ。それに日本のとある企業グループには、世界各所での地下資源発掘時に見つかったオーパーツの研究部門が存在するそうだ。トラペゾヘドロンだのUFOの破片だのを調べていると噂のそこなら、オーバーテクノロジーを持っていても不思議じゃない」

 本気でつまらなそうに舌打ちする英梨。

「変な茶々入れんな霜田。てかあんたそういう雑誌の読者だったの」

「何言ってるんだ。『月刊ヴォイニッチ』はロマンチストの必読書だぞ」

「──その話、いいとこ突いてる」

 餡の思わぬ反応に、いつもの如く喧嘩を始めそうだったふたりが口をつぐむ。

「そういう研究所を持ってる企業があるのは本当。トラなんとかはわかんないけど、地球の外から飛んできたらしい何かを調べてたのも本当。その研究成果が応用されて作られたのがこの子なの」

 淡々と語る餡に鼻白む英梨。

「何であんたがそんな事知ってるの。あんた何者なわけ」

「そこのオーナー一族の、孫娘。雲仙組、知ってるでしょ?」

 日用雑貨から深宇宙探査艇までおよそ手がけていない商品はなく、誰でも知っている超巨大企業の名前を出されて英梨はぽかんとする。その隙に、餡は英梨が抱いていた右腕を素早く奪い取った。

「ちょっと、何すんの」

「いつまでも外れたまんまじゃかわいそうだから」

 そう言って右腕のない小柄な転校生──武垣美智の近くに座り込むと、体操服の裾をまくり上げて肩と腕の断面を密着させる。するとものの数秒もしないうちに、継ぎ目の跡さえ残らず右腕は元通りあるべき場所に繋がった。

「ま……またく……くっついた」

 魔法のような光景を目の当たりにして、横に座っていた馬飼野が恐る恐る転校生の肩口をつついてみる。その瞬間、今度は転校生の頭部が胴体から離れ、生首がごろりと畳の上に転がった。馬飼野は悲鳴すら上げられず固まっている。さらに生首の目が開き、彼を凝視するに及んで、馬飼野は遂に泡を吹いて卒倒した。他の面子も気を失いこそしなかったものの、みな固唾を呑んで分離した頭部に注目している。

 眼球のみを移動させて部屋を観察し、餡を発見すると、生首は落ち着いた口調で話し始めた。

「ここは中等部校舎内の現在使用されていない宿直室ですね。お嬢様、私は何故ここにいるのでしょう」

「人前でその呼び方すんなって言ったでしょ。ていうかもう色々手遅れだけどさ」

「またそのような汚い言葉遣いをなさって。少しはご自分の立場というものを──」

「首だけで説教されてもね。美智が急に具合悪そうにするから、保健室に運ぶふりしてこの部屋に運んできたの」

「それはご迷惑をおかけしました」

「もういいけど。それでさ、さっきからあちこちポロポロ外れてるんだけど、どうやったら直るのそれ」

「たいへん申し訳ございません。人格形成の際に若干条件付けに問題があったようで、指定の衣服を長時間纏わないとストレスが蓄積して身体機能が阻害されてしまうようです」

 喋る生首を慎重に断面へ重ねていた餡はそれを聞いてこめかみを引きつらせる。

「……それ絶対ジジィの差し金だ。だいたい予想つくけど、その服って?」

 餡の手で再び胴体と首が繋がった少女は、満面の笑顔で言った。

「はい。メイド服でございます」

 言い終わるのと左足の腿から下がもげるのはまったくの同時だった。



 窓の外では五月のやわらかい日差しに陰りが見えはじめていた。

 文字通り壊れものの美智をそろそろと運んでいく英梨と郁子、メイドふたりの姿が兎束ゾーンの奥に消えると、餡はクラスメイトのフヨとその夫に向かって事情を語りだした。

「こうやって話すのは初めてかもね、羽中田さん。うちってさ、クラスでも部活でも目立つほうじゃないけど、いつも気の合うグループでつるんでて、たまにはハメ外して馬鹿騒ぎして……自分で言うのも何だけど『普通』だったでしょ」

 垂れ目がちの目尻をさらに下げて微笑むフヨ。

「うん、ちょっと羨ましいぐらい」

 フヨが真面目な話では語尾を伸ばさないことを知って、餡は微かに頬を緩めた。

「うちね、生まれた家が全然普通じゃないことに気付いてから今日まで、必死で『普通』を取り戻そうとしてきたの。中学も監視つきのお嬢様学校に入れられそうだったんだけど、ママを味方に付けてなんとかこの学校に決まったときはほんとに嬉しかったな。当然ひと悶着なんてレベルじゃなかったけど。そんで入学してからも、家のことはなんとか誤魔化してうまくやってたの。でも──」

 兎束ゾーンに暗い視線を向け、癖なのか耳たぶを触る。

「油断してた。まさか護衛の人をつけるのはダメって言ったからって、『人間じゃない護衛』を送り込んでくるなんて」

 夫婦を見据え、餡は静かに頭を下げる。

「羽中田さん、霜田くん、お願い。今日見たことは秘密にして。うちの『普通』を壊さないで」

「最初からここだけの話に持ち込むつもりだったのか。この部屋には『普通』の生徒は間違っても入ってこないからな。だが」

 フヨに目配せしてからの霜田の返答にさっと明るくなりかけた餡の表情が、途中の微妙なところで凍結する。

「──ひとつだけ条件がある」

「わかった。うちに出来ることなら何でもする。それで、その条件って」

 しかめっ面に戻った餡に対して、姿勢を正して向き合った霜田が告げる。

「ふたりが次メ研の会員になること。どうもさっきの話ではあの女子は定期的にメイド服を着なければならないらしいし、ちょうどいいと思うが」

 緊張を解き、あからさまにほっとする餡。

「なんだ、そんなことでいいの。うちバスケ部だからかけもちになるけど、それでいい?」

「ああ、そっち優先でいい。兎束も文句ないな」

「あたしとしては、スカウトの相手が増えてどっちかってとおいしいかな」

 そう返す英梨は美智の着替えを終えて、郁子とともに兎束ゾーンから出てきたところだった。

「転校生が餡、あんたに『仕えてる』って噂を聞いてから、この子のことはずっと気になってたし。あ、安心してていいよ。まだほんの一部にしか広まってない噂だから」

 そんなふうに餡に向かって説明する英梨は、着替えの済んだ美智の手を郁子と片方ずつ握りあっている。ふたりに挟まれ、サイズの合っていないメイド服を気にしている美智の小さな姿は見る者が見れば萌え死にそうな破壊力だったが、どこかFBIに連行される宇宙人をも彷彿とさせた。メイド服姿になった効果が本当にあったのか、もう分解する様子はない。

「スカウトって、どういうこと?」

「ああ、あんた知らないんだ。あたしんちメイド喫茶やってんの。で、このメイドロボ子さんにも働いてもらいたいわけ」

「私は汎用で別にメイドロボというわけではありません」

「ハンヨウって何? 中国語?」

 英梨の破天荒な返答に、質問した餡はしばらく絶句する。

「……それは無理。美智はうちの護衛が本来の役目だから、一定以上離れないように行動にプロテクトがかかってるはず」

「じゃあ、あんたも一緒にどう? 素材は悪くないし、けっこういけると思うけど」

「うん、『身分を隠したお嬢様がメイドさんに』はかなりロマンチックだな」

 霜田までしゃしゃり出てきて、今度こそ餡は二の句が継げなくなった。

「うが……メイド……ロボ……メ……イドロボッ!?」

 特定の単語に反応したのか、今まで気絶していた馬飼野が息を吹き返す。跳ね起きざまに美智をサーチし、素早く近づいた。

「メイドロボの武垣さんに質問があります」

「私は汎用で別にメイドロボというわけではありませんが何でしょうか」

 爛々と目を輝かせ、普段のぼそぼそと聞き取りにくい声とは別人のような滑舌で喋る馬飼野は、それはそれでキモかった。

「──水は出ますか?」

 言い終わるか終わらないかのうちに、馬飼野は英梨にグーで殴り倒され、再び昏倒した。ひとさし指を口元に持っていき、美智は首をかしげる。

「今のはなんだったのでしょう」

「最っ低のセクハラ質問だから忘れて。馬にかわって飼い主のあたしが謝っとくわ」

「はあ……」

 以上のような顛末をもってこの日、またも次メ研は新メンバーふたりを迎え入れることになったのだった。

(1.01)

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